お香の起源と発展

お香の起源は、パミール高原(その大部分は現在のタジキスタンに含まれる)に発するといわれ、その後インドに伝わりました。紀元前5世紀後半「釈迦」による仏教が興ると、焼香としての「香」が盛んに奨められ、仏教の伝播とともにお香は中国を含め各地へ伝わっていきました。我が国では、『日本書紀』に“推古3年(595年)の夏4月、淡路島に沈水(ちんすい)が漂着した”と記されており、これがお香に関する最古の記録になります。

仏教の伝来とともに海外からの渡来品として日本に伝わったお香。奈良時代には、唐の僧「鑑真和上」が来朝し、さまざまな香薬と焼香などの調合技術を伝えたことで、“日本の香=薫物(たきもの)”は発展し、空薫物(からたきもの。仏教の供香から離れ、香り自体を楽しむもの。練り香の原形)が生まれました。平安貴族たちは、より優美な芳香を求め、その調合を洗練させ、遊技の「薫物合せ」を生むこととなります。

この日本独自の香りの文化は、この後の香道が形成される源となります。優雅な王朝時代から武家の時代へと移行してくると、複雑な薫物の香りに代わり、香木一木(いちぼく)の香りが好まれるようになり、さまざまな香木の香りを聞き比べる「聞香(ききこう・もんこう)」へと発展しました。そして室町時代になり「香道」が成立することとなります。

お香は、茶道ではお茶席を清めるため炉で焚いたり、寺院では燃える長さで時刻を知る時計(香時計・香盤)として用いたりしていました。それ以外に着物に香りを移す伏籠(ふせご)、鞠香炉(まりこうろ)など、さまざまな使い方をされてきました。葬儀での「香典」も元々は仏前に香(お線香)を供えることを意味していましたが、現代では香の代わりとして現金が渡されるようになりました。このようにお香は日本における長い歴史の 中で、さまざまな形で時代の移り変わりとともに根付いてきたのです。

香木について

香木とは広義には、樹木より採れる香料全般のことですが、通常は伽羅・沈香・白檀を指します。

香木の種類

伽羅(きゃら)

沈香の中でも最上品のものを伽羅と言います。産出量が僅少で、古来よりその価値は金に等しいとされてきました。独特な芳香を放ち、香道に使用される主な原料となっています。

沈香(じんこう)

樹木内に樹脂が長い年月をかけて形成、熟成されて良質の香材となります。原木自体は軽いですが、樹脂が沈着した部分は重く水に沈むため沈水香と呼ばれています。常温ではあまり香りませんが、加熱すると幽玄な香りを発します。伽羅と同じく鎮静効果に優れています。

白檀(びゃくだん)

幹部の芯材を削り出し、十分乾燥させ、角割・刻みなどにして使用します。仏像などの彫刻、扇子、念珠など幅広く利用され、匂香や焼香など、調合香の中心素材でもあります。防虫効果にも優れ、正倉院御物にも添えられました。甘く爽やかな香りをもち、インド南部産のものが最上品とされ、老山白檀とよばれています。精油としての使用も多いです。

六国五味(りっこくごみ)

伽羅・沈香の香りは深遠なものであり、「日本の香り」の根幹をなすものです。香りは一木毎に異なるのですが、外観に差異はほとんどありません。そのため、数多くの中から適時、適所に叶う香木を自在に選び出せるよう、香道における分類として「六国五味(りっこくごみ)」と呼ばれる方法が編み出されました。
「六国(りっこく)」とは伽羅(きゃら)・羅国(らこく)・真南蛮(まなばん)・真那賀(まなか)・寸門陀羅(すもんだら)・佐曽羅(さそら)の六種の大枠のことで、それらはさらに香りを味に置き換えた「五味(ごみ)」に分けられます。五味とは甘(かん)・酸(さん)・辛(しん)・鹹(かん)・苦(く)の五種類の味を指し、この五味が何種含まれるか、組み合わせはどうかを判断します。六国の概念は元々産地を表すとされていましたが、後には香りの性質により、化学的な分類ではなく、体感的手法によって伝承されています。

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